記事番号: 1-1028
公開日 2022年10月05日
「1.工事の概要について」の中でも少し触れていますが、今回の工事の最大の特徴は、採用した地中熱交換器の仕組みが国内だけでなく全世界でみても本格的な導入第1号となる「セミクローズドループ方式(地下水移流型熱交換器)」であることです。この技術は、国立研究開発法人 産業技術総合研究所 福島再生可能エネルギー研究所(FREA)を中心に、福島県の復興事業の中で開発されたもので、地下水の流れが活発な場所において高い熱交換能力が得られる方式です。そのため、地下水がどれくらいの深さにどれくらい流れているかが大変重要なポイントになります。
また、今回採用した方式が実際にどれほどの効果があるのかを実証データを内外に示すことで、四国地方のような比較的温暖な地域であっても、地域特性を生かした再生可能エネルギーとして、地中熱利用システムが公共施設やビルなどの省エネルギーに大きく貢献可能であることを示されることが期待されています。
地下水について
八幡浜市は平地が少なく山々に囲まれた地形のため、地下水が豊富でその流れも速いと考えられています。市内の平野部では昔から井戸水を利用しており、現在でも水道水や工業用水として利用されています。なお、当市の年間降水量は1,687mm(H26年~H28年の平均値)となっており極端な特徴はありません。
今回の導入予定地は、深さ30~45mの区間は地下水の流れが活発であり、地中熱システムの熱交換に有利な条件であることが一昨年の調査で判明しています。そのため、地下水の移流効果(地下水の流れによる熱輸送の効果)により高い熱交換が期待されるセミクローズドループ方式を採用しました。
また、セミクローズドループ方式(地下水移流型熱交換器)は、地下水を直接汲み上げずに、一般的なクローズドループ方式と同様に、Uチューブ(地中熱交換パイプ)中の循環液と地層との間で熱交換を行うため、地下水質の影響を受けません。地中熱システム導入の効果に影響をあたえるのは、地中の温度や地下水の流れがあるかという点です。
一般的に、地下水の温度は、その土地の外気の年間平均気温に相当すると言われています。その場合、当市では17℃程度になりますが、今回の予定地は海を埋め立てた土地になるため、平均気温よりも若干高い20℃となっていますが、外気と比較して、夏は温度が低く冬は温度が高くなるため、通常の冷暖房よりも、冷暖房の出力と消費電力の比で示されるヒートポンプの成績係数(COP)が高くなります。
地中熱交換器の仕組み
今回のセミクローズドループ方式(地下水移流型熱交換器)の仕組みと地下水の関係は次のイラストで示すとおりです。
施工手順で説明すると次のとおりです。
掘削した井戸の中へケーシングパイプ(直径150mmの塩化ビニールパイプ,孔壁の崩壊を防ぐための保護管)を挿入し、その内側へ地中熱交換パイプであるシングルUチューブ(直径63mmのポリエチレンパイプ)を挿入し、配管を接続します。
今回の地中熱システムで採用する地中熱交換パイプは、地中熱システムの利用が盛んなヨーロッパで使われているスイス製で、少々特殊な形状です(powerwaveシングルU字パイプ)。素材はPE100ポリエチレン製、外径63.0mm、1巻あたりの長さは51mです。この製品は地中熱交換パイプの表面が蛇腹状になっており、従来の地中熱交換パイプよりも表面積を大きくすることで、熱交換効率を向上させる目的があります。
ケーシングパイプについて
ケーシングパイプ1本あたりの長さは4,000mm(有効長は3,950mm)、ネジ部で接合しながら井戸に挿入します。今回は、井戸の深さが53mであるため全部で14本挿入します。29mから49mの範囲に設置するケーシングパイプ5本分には、地下水の移流効果を取り入れるためにスリット加工を行っています。スリット加工は、円の周囲に10列、縦方向に19段行っています。このスリット部分から地下水がケーシングパイプ宙を通過することによる熱の輸送効果を活用し、地中熱交換パイプ周辺のみかけ熱伝導率を向上させる効果が期待されます。
名 称 | 規 格 | 材 質 |
ケーシングパイプ(スリット加工) | 外径150mm、全長4m ※最上部は全長2m |
塩化ビニール製 |
特殊形状シングルUチューブ | 外径63.0mm、全長51m | ポリエチレン製 |
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