記事番号: 1-2895
公開日 2023年02月21日
既報のとおり、今回の地中熱システム工事で採用した「セミクローズドループ方式(地下水移流型熱交換器)」は、国内だけでなく世界で見ても本格的な導入第1号です。そのことを踏まえ、本工事の中で地下水移流型熱交換器における見かけ熱伝導率の計測を6本の熱交換井戸で合計8回の試験を行いました。このように、一つの現場で複数回の見かけ熱伝導率の計測を行うのはあまり例のないことです。
地下水移流型の地中熱ポテンシャル調査の目的
地中熱システムにおいて、地中との間で熱交換量がどの程度になるかは、システムの性能を左右する重要な指標となります。地中熱システムは地中熱交換井1本あたりの熱交換量が大きければ、地中へ多くの熱を放出(あるいは吸熱)することができます。セミクローズドループ方式では、地中を流動する地下水に着目し、建築物で冷房(あるいは暖房)することで得た熱を、ダイレクトにその地下水に放熱(あるいは吸熱)します。地中熱システムにおいて、地下水に流動が無ければ、熱を与えられて暖まった水が地中熱交換器の周りに滞留し続けることになり、最終的には地上から送られてくる熱と地下水の温度が同じとなり熱交換が進まないことになります。そのため、地下水移流型の熱交換量計測を行い、その熱の移動の大きさが重要になります。
地中熱ポテンシャル調査のあらまし
地中熱ポテンシャル試験は、地中熱交換器に熱媒体(水)を循環させて、循環時の水温を計測する温水循環試験と温水循環試験後の温度回復を計測する温度回復試験の2回の試験を行い、作図法(循環時・回復時)およびヒストリーマッチング法の2種類の解析を行いました。
出展:「官庁施設における地中熱利用システム導入ガイドライン(案)」国土交通省、平成25年10月
図1 地中熱ポテンシャル調査模式図
温水循環試験は、地中熱交換器にヒータで加熱した温水を60時間以上循環させて、熱交換器入口温度と出口温度、流量を計測します。一方、温度回復試験は、地中熱交換器に与えた熱負荷が地中によりどの程度下がっていくかを計測する試験です。試験は、温水循環試験終了後のデータを計測し、地中熱交換井内にあらかじめ設置しておいた地下温度計で行われます。モニタリング期間は温水循環試験終了後から144時間以上行います。
解析方法
作図法(循環時)は、温水循環時のデータを解析するもので、温水循環試験のUチューブの出入り口温度の平均値と経過時間の関係を取り、その経時変化曲線の傾きから地中の有効熱伝導率を推定する。井戸全体の熱伝導率を把握する手法です。
出展:藤井他.2006、日本地熱学会より抜粋
図2 循環時法による解析結果の例
作図法(回復時)は、温水循環試験終了後に地中熱交換井内に設置した地下温度計のデータで行います。これらは温水循環試験での地盤の温度上昇が、加熱を止めた際にどの程度下がっていくかを計測する試験で、経時変化曲線の傾きから地層の有効熱伝導率を推定する方法です。
出展:藤井他.2006、日本地熱学会より抜粋
図3 作図法による解析結果一例
ヒストリーマッチング法は、作図法と同様に深度毎の有効熱伝導率のデータを得るものです。温水循環試験中の地中熱交換器入口温度を入力値とし、地層の有効熱伝導率をマッチングパラメーターとして数値シミュレーションモデルによる地中熱交換出口温度を予測、計算値と実測値のマッチングによって地層の有効熱伝導率を推定します。
出展:藤井他.2006、日本地熱学会より抜粋
図4 ヒストリーマッチング法による解析結果一例
地下水移流型地中熱ポテンシャル調査の実施
今回の工事においては、地下水移流型の地中熱ポテンシャル調査として6本の熱交換井戸で合計8回の試験を行いました。
出展:八幡浜市民スポーツセンター地中熱システム導入浩治地中熱交換器配置図
図5 地下水移流型地中熱ポテンシャル調査計画図
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