記事番号: 1-2896
公開日 2023年02月21日
既報のとおり、今回の地中熱システム工事で採用した「セミクローズドループ方式(地下水移流型熱交換器)」は、世界初であることから、あまり例のない地下水移流型熱交換器の地中熱ポテンシャル調査を6本の熱交換井戸で合計8回の試験を行いました。
地中熱ポテンシャル調査のあらまし
地中熱ポテンシャル調査は、地中熱交換器に熱媒体(水)を循環させて、循環時の水温を計測する温水循環試験と温水循環試験後の温度回復を計測する温度回復試験の2回の試験を行い、作図法(循環時・回復時)、およびヒストリーマッチング法の2種類の解析を行うものです。
地中熱交換器の熱応答試験は、図1に示す地点で行いました。
図1 地中熱交換器設置場所
出展:八幡浜市民スポーツセンター地中熱システム導入工事地中熱交換器配置図
熱応答試験から解析して得られる見かけ熱伝導率の結果を表1に示します。日本での平均的な熱伝導率が1.2~1.4 W/(m・K)であるとされているなか、八幡浜スポーツセンターでの熱伝導率は、各試験の平均で循環時法3.91W/(m・K)、回復時法4.14W/(m・K)、また、最も低い値でも2.38W/(m・K)と非常に高い結果が得られました。この結果は、この八幡浜は地中熱システムに大変向いた土地であることを示しています。
既存BH | BH2-1 | |||||
実施時期 | 2020/10 | 2022/10/11~ | 2022/9/13~ | 2022/9/26~ | 2022/10/23~ | |
熱伝導率 |
循環時法 | 3.26 | 2.41 | 2.46 | 2.64 | 2.52 |
回復時法 | 3.88 | 2.84 | 2.24 | 2.74 | 2.43 |
BH1-5 | BH1-10 | BH2-4 | BH3-8 | 平均 | ||
実施時期 | 2020/10/8~ | 2022/10/17~ |
2022/10/14~ |
2022/10/20~ | ||
熱伝導率
|
循環時法 | 2.38 | 11.1 | 2.42 | 3.84 | 3.91 |
回復時法 | 2.69 | 14.31 | 2.65 | 3.23 | 4.14 |
表1 試験結果
特に、BH1-10の見かけ熱伝導率は10 W/(m・K)を超え、きわめて大きな見かけ熱伝導率となっており、地下において非常に活発な地下水の移流があることを示しております。活発な地下水の流れは地中での熱交換の活発化を促しますので、地中熱システムにおいて非常に有利になるものです。
見かけ熱伝導率については計画された熱交換器の配置とその熱交換器の掘削の状況から、南側が地下の流れが速く見かけ熱伝導率も高いことが予想されました。そこで、北側の16か所と南側の11か所とをグループとしてみていき、また、見かけ熱伝導率以外の項目(地中温度、熱抵抗)をまとめると以下のとおりとなります。
試験結果 | 備考 | ||
平均地中温度 | 20.8℃ | 熱伝導率調査実施場所の平均値 | |
地番の有効熱伝導率 |
北側16か所 | 2.5W/(m・K) | 16か所(既設含む)の平均値 |
南側11か所 | 3.2W/(m・K) | 11か所の平均値 | |
BH1-10 | 14.3W/(m・K) | ||
地中熱交換器の熱抵抗 | 0.036m・K/W | 熱伝導率調査個所の平均値 |
(有効ではなく見かけ)
表2 地中熱交換器の諸数値
一般に地中温度はその土地の平均気温にほぼ一致すると言われていますが、本工事地点の地中温度は20.8℃と八幡浜市の平均気温(約17℃ 瀬戸を参考)よりも高くなっています。
一方で、今回の工事では予想されていなかった現象もありました。一般に、地中の熱伝導率は数十メートルの範囲では大きく変化することはなく、また、時間的にも熱伝導率の変化はないものとされています。しかし、今回の試験の結果を見てみると、一昨年実施した熱応答試験と今回実施した熱応答試験では既存BHの見かけ熱伝導率が大きく異なるものとなりました(表 1参照)。この結果は、地中熱システムの専門家も驚かすもので、見かけ熱伝導率に影響を及ぼしている地下水の流れが時間的に大きく変化することを示しています。
今計画において全面的な協力体制にある国立研究開発法人産業技術総合研究所等、地中熱システムに関わる事業者による更なる調査・研究が期待されいます。
前の記事 8.地下水移流型の地中熱ポテンシャル調査
次の記事 10.横引き配管工事について
- 過去の記事を見たい方はこちらからご覧ください。