記事番号: 1-2902
公開日 2023年02月21日
ヒートポンプの仕組みについてさらに詳しく説明します。
まず、ヒートポンプの役割はその名のとおり、ヒート(熱)をポンプ(汲み上げる)することです。例えば、自然な状態では川の水は高い山から低い海に向かって流れていき、温かいお茶が湯気を上げて冷めていくように、熱も高温な部分から低温な部分へ移動します。
その一方で、ポンプを用いることで、水も熱も低いところから高いところへ移動させることができます。この熱を移動させるポンプが「ヒートポンプ」と呼ばれる装置です。
また、ヒートポンプは少ないエネルギー(電気)で、小さな熱をかき集めて、大きな熱エネルギーとして利用する技術であり、使用したエネルギー以上の熱エネルギーが得られることから、大幅なCO2排出削減に貢献することが期待されています。
次に、地中熱ヒートポンプエアコンと空気を熱源とする一般的なヒートポンプエアコン二つを比較して説明します。
一般的なエアコンの場合
一般的なエアコンでは熱のやりとりをする相手は空気(外気)です。例として、冬に家の中を暖めるために作動させた場合、以下のながれで作動します。
①外の空気(約8℃)から熱をもらって室内に汲み上げる。
②室内を暖める過程で外の空気の熱を奪うため、室外機からは冷たい風が出る。
③外気の低い温度から熱を移動させるために、冷媒ガス(フロンガスなど)を使用する。
※冷媒:熱交換器とヒートポンプまでの熱の移動につかうガスや液体
この場合、冷たい外の空気が熱源となるため、部屋の中と温度差が大きくなります。そのため、8℃の外気からヒートポンプの力で熱を奪って20℃にするために、ヒートポンプが必要とする電力も大きくなってしまいます。
地中熱ヒートポンプの場合
地中熱ヒートポンプエアコンでは、熱のやりとりをする相手は地中です。先述のとおり地表の影響を受けない10メートルより深い地中では、1年中温度が安定しているため、たとえ真冬であっても約20℃に保たれた状態となっています。
①地中から熱交換器を通じて熱をもらって室内に汲み上げる。
②室内を暖めていく過程で、地中の熱を奪うため、地中の温度は低下する。
③地中から熱を移動させるために、冷媒(水・不凍液・冷媒ガスなど)を使用する。
この場合では、地中熱ヒートポンプを使い、地中に埋めた地中熱交換器を通じて、熱を奪って汲み上げていきます。ただし、実際には地中の20℃の熱をそのまま室内の温度として使うことはできないので、ヒートポンプを電力の力で20℃よりも少し高い温度になるように、熱を汲み上げる必要があります。さらに、熱を運ぶ冷媒である循環させるポンプも電力の力で動かす必要があります。これらを加味しても、8℃の外気と比較すると、圧倒的に暖房の設定温度に近い地中熱のほうが、同じヒートポンプの力を使う場合でも、少ない電力で行うことがお分かりいただけると思います。
夏場に冷房として使用する場合でも、室内を28℃にするために、35℃の外気と20℃の地中熱とでは、ヒートポンプが働くための必要な電力に大きな差が生まれるのは明白です。さらに、夏場は空気を利用するエアコンは、外気に高温の空気を放出しつづけるため、都市部ではヒートアイランド現象の原因の一つとなっている点も、地中熱利用ヒートポンプが地球環境にも優しいとされる理由です。
また、空気を利用するエアコンは、熱源を外気としているため室外機が必要ですが、地中熱ヒートポンプは室外機が必要なく、室内の機械室などに設置することができるため、建物の外観への影響や機器自体の寿命も長くなります。さらに、今回導入する市民スポーツセンターのように、沿岸部に立地している場合、塩害による腐食の影響も無くなるというメリットもあります。
ヒートポンプは、これからのカーボンニュートラルの実現には必要不可欠な存在として位置づけられています。ヒートポンプの仕組みについては、インターネットで調べると詳しく説明しているサイトがありますので、ご興味がある方は一度調べてみることをおすすめします。
ここまで、一般的なエアコンと地中熱ヒートポンプエアコンの違いについて説明しましたが、ヒートポンプの能力を示すものとして、冷暖房の出力と消費電力の比で示される「ヒートポンプの成績係数(COP)」という指標があります。
先述のとおりヒートポンプは、電気の力(投入エネルギー)を使って自然に存在する熱エネルギーを作り出すものです。つまり、1の電気の力に対して2~7など何倍もの熱エネルギーを作り出すことができます。この能力の高さを、例えば電気1に対して3倍の場合は、「COP3.0」という形で表しています。
一般的なエアコンは、冷房・暖房運転の平均COPは,2.8程度と言われています。それに対し、地中熱ヒートポンプエアコンは、COP3.5以上とされています。ただし、このCOPは一定の温度条件下での能力を示したものであるため、実際の使用環境により大きく異なる場合があります。
このように、一般的なエアコンなどにもヒートポンプは利用されており、空気という自然エネルギーから、熱のやりとりを行う「再生可能エネルギー」を利用したものではありますが、『地中熱』という、これまで利用することが技術的に難しかった自然エネルギーを利用することで、さらにエネルギー消費を大幅に抑えることが可能となる仕組みをご理解いただけたのではないでしょうか?
地中熱以外にも、河川水、海水、井戸水、下水排水、温泉排水など、まだまだ未利用の熱エネルギーは身の回りに多数存在しています。再生可能エネルギー分野では、太陽光発電や風力発電などの発電する自然エネルギーに注目が集まりがちですが、地中熱をはじめとする未利用熱を上手く熱エネルギーとして利用することで、将来的に建物などで使用する電力を大幅に削減することが可能となります。その結果、発電によって作る電力(=設備)も必要最小限となっていくことが、2050年カーボンニュートラルの実現のための重要なポイントだと言えます。
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